アストル・ピアソラ作曲「リベルタンゴ(Libertango)」をソロギターアレンジ・演奏しましたので、曲についてつらつら書いていこうと思います。
自身の楽譜(TAB譜)・ギター演奏動画リンクも貼っておりますが、リベルタンゴのソロギター版全般にご興味のある方向けの内容も多く書きましたので、「目次」からご興味のある部分だけでもご覧いただけると嬉しいです。
目次
リベルタンゴのソロギター楽譜
楽譜サイトPiascoreよりご覧ください。
【ソロギター楽譜/TAB譜】リベルタンゴ(アストル・ピアソラ)
リベルタンゴのソロギター動画
YouTubeリンクを貼っておきます。
細々とギターを弾いている身としては本当に嬉しいくらい多くの方に見ていただいていて、おかげさまで楽譜(TAB譜)も結構ご購入いただいています。感謝。
※よかったらご覧いただいたり、チャンネル登録いただけると大変嬉しいです。
リベルタンゴのコード進行とフレーズの特徴
リベルタンゴのコード進行と、フレーズの特徴について書いていきます。
コード進行
例の有名なフレーズのコード進行は以下の流れです。
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Am → B7/A →Bm7(b5)/A → Am
Am7/G → F#dim7 → Fdim7 → E7
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ベース音がA(ラ)で始まってしばらく続き、以降はG(ソ)→F#(ファ#)→F(ファ)→E(ミ)と半音で下っていくのが非常に美しい、印象的なコード進行です。
ギターのコードフォームで書くとこんな感じになります。
中盤に転調っぽくなる箇所は以下のコード進行です。
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Gm/Bb → A → Dm → Dm
Fm/Ab → G → C → E7
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フレーズとしては以下のくだりです。(1:59~2:11)
こちらのフレーズは曲中1回だけの登場で、先のAm~のコード進行がイントロ含めて曲の大部分を占めます。
フレーズの特徴
前述の通り曲の大半を占める「例のフレーズ」が上記(Am~)のコード進行であり、同じコード進行の中でオクターブ上下したり別のメロディが入ったりするだけなので、そのことを意識すると比較的練習・暗譜がしやすいです。
実は案外「覚えることは少ない曲」と言えるかもしれません。
ちなみに、あの印象的なフレーズ(メロディ)も、ほぼコードの構成音で出来ています。かと言って単なるアルペジオとも印象が全く異なる、リズムとメロディっぽさも兼ねた「コロンブスの卵」的なフレーズだと感じます。
青が構成音、赤が非構成音です。
改めて見ても、「構成音中心の組み合わせだけで、こんなに記憶に残るフレーズになるのか」と、作曲者であるピアソラのセンスに脱帽します。※余談ですが、ピアソラは当時「タンゴの破壊者」として命まで狙われたそうな。
リベルタンゴのソロギターアレンジについて
ソロギターでの編曲・アレンジをしたわけですが、正直に申し上げて各フレーズとも、ぶっちゃけあまり考える余地がありませんでした。笑
というのも、特に「例のフレーズ」などは、「メロディ」と「ベース音下行の流れ」を両立させるだけで、左手の指がほぼ埋まるんです。要は選択の余地があまりない状況でした。
メロディを1オクターブ高くした場面なんかは顕著で、メロディが低かった時には活用できていた5~6弦の開放(ラとミ)が「ベース音下行」の都合上使えなかったので、本当に「メロディとベース音だけで指が埋まる」状態でした。
以下の部分ですね。
そんな「メロディとベース音だけでカツカツ」な中で、以下のことに気を付けてソロギターアレンジしました。
・どれだけ原曲と遜色ない雰囲気を再現できるか(音数を削り過ぎない)
・どれだけ弾きやすくできるか(これは主に自分のため。。)
結果、割と本家っぽく、かつ「頑張れば弾ける」くらいの難易度に編曲できたのではないかと感じます。
リベルタンゴをギターで弾くときに難しいポイントとカッコ良く弾くコツ
これは私のアレンジした楽譜に限らず、どなたのアレンジでも共通してくるかと思いますので、他の楽譜でリベルタンゴを演奏される方にとっても損のないお話かと思います。
難しいポイント
リベルタンゴの難しいポイントは、「メロディを弾く」と「3/3/2のリズムでベース音を刻む」の二つを両立させること。これに尽きると思います。
譜面の見た目で言うと以下のようなところで、主要なフレーズの多くが該当します。
この曲は全体を通して「1拍目頭→2拍目裏→4拍目頭」、要は「3/3/2」のリズムでベース音を刻む場面が非常に多いのですが、当然そのベース音を刻みながら、けっこう忙しいメロディを弾く必要があります。
逆に言えば、この「メロディ」+「3/3/2のベース音」をスムーズに弾けるようになれば、曲の8割を攻略したと言って良いです。
練習ポイント
前述の通り、「メロディ」+「3/3/2のベース音」の両立が、リベルタンゴの難しさの大半を占めますので、ここを重点的に練習します。
以下のようなフレーズですね。
また、もう1つの注意点として以下のようなフレーズを挙げておきます。
小節内の赤い部分は2音目と3音目が同じ弦(4弦)だったのですが、青い部分は2音目と3音目が異なる弦(5~4弦)になります。
譜面の見た目やリズム感は全く同じなのでスルーしがちなのですが、弾く弦が異なると案外勝手が異なり、思いの外テンポを乱されたりします。
そのため、2音目と3音目については、
① 同じ弦のパターン
② 違う弦のパターン
↑で、それぞれ気を抜かずに意識して弾いてあげる、というのもコツです。
おすすめの練習方法
練習のやり方・コツとしては、以下がおすすめです。
① 運指を決める
左手の押さえ方・右手の弾く指を1音毎に完全に決めて、必ずその通りに弾く
② 暗譜
①の運指で反復練習し、ある程度覚える
③ 一定のリズムで反復練習
めちゃくちゃゆっくりで良いので、一定のリズムで弾ける速度で弾く ※メトロノームを使い、自分のリズムだけで弾かない
↑ここまででトータルの8割くらいです。
④ 目標テンポまで速度を上げる
「5ずつ」など、ほんの少しずつテンポを上げて反復練習 ※メトロノームは継続
この曲に限らずの練習法ではあるのですが、ことリベルタンゴに関しては重要だと感じます。
例えばですが、私は以下の流れで練習してました。
① とりあえず運指を決める
② 暗譜。辛い。
③ テンポ80で開始 → つまずいたので60から開始
④ 「ほぼノーミスならテンポ5上げ」を繰り返して目標テンポまで持って行く
…我ながら泥臭い。
とはいえ、各フェーズ毎に「運指の確定」「暗譜」「一定テンポでの完走(完奏?)」「スピードアップ」と目的を分け、ある種作業化していくのが良いかと思います。
私もあまり要領が良い方ではなく、それでもこの順番で曲に取り組んで最終的にはまあまあ弾けるようになれてきました。
だいたいですが、毎度上記の③、「めちゃくちゃゆっくりでも一定のテンポで弾ける」までが全工程の8割くらいで、あとは加速度的にテンポ上げても弾けるようになれることが多いです。
①~③の工程はけっこう辛いと思いますが、その分先が楽になるので、ご参考いただけると嬉しいです。
カッコ良く弾くコツ
リベルタンゴをギターでカッコ良く弾くコツは、「一部の音を気持ちスタッカート気味に弾く」というものです。テヌート(音を伸ばして弾く)でもカッコ良いのですが、要所要所で音を切ってあげた方がメリハリと疾走感が出て良いです。
楽譜で言うと以下のイメージで、赤い部分の音を気持ちスタッカートするイメージです。
手前味噌ですみませんが、これは多分動画の対象箇所を見ていただけた方がイメージが付くと思います。
テヌート気味で滑らかに、というよりは、ちょいちょい消音を挟んでいることが伺えるかと思います。
低音とメロディの連動が取れてきた段階で、メリハリをつけた弾き方を練習いただくと、よりカッコ良い演奏になるはずです。
…という具合で、要は前半部分に難所が詰まっています。
半面、後半のフレーズで和音をジャカスカ弾く部分は、それまでに神経を擦り減らしていたこともあってカタルシスMAXって感じで気持ちよく弾けます。笑
「もう自由やで!」みたいな感覚が気持ち良いので、ぜひ体験いただきたいです。
おすすめのリベルタンゴのギター動画
独断と偏見によるチョイスですが、ぜひ多くの方に知っていただきたい偉大な先人の方々のリベルタンゴの演奏動画をご紹介させていただきます。
鈴木大介 氏のリベルタンゴ(ソロギター)
言わずと知れたクラシックギタリスト、鈴木大介氏の演奏です。
ご自身による編曲のようで、ピッチカートやラスゲアードなどクラシックギターならではの奏法を取り入れた、表情豊かなアレンジと圧巻の表現力はさすがの一言です。
アレンジに際して、私は「考える余地がなかった」と申しましたが、やはりプロのアレンジは引き出しの量・質ともに一味も二味も違うと感じました。脱帽。
こんな風に弾けるようになりたいものですね。。
ちなみにこちらのアレンジのリベルタンゴは、「現代ギター 2018年5月号」のP.67~に楽譜が掲載されています。※動画内の前奏は含まれておらず、楽譜の内容は動画内の0:36以降になります。
クラシックギター楽譜の常でTAB譜の併記はないのですが、楽譜を読み下す苦労さえも楽しめる良アレンジだと感じました。
その直前のコラム「天下御免の年男2018」には鈴木大介氏ご本人がリベルタンゴとの長い付き合い(?)について語られており、ギターファンにとっては貴重な号かと思います。
横田明紀男 氏のリベルタンゴ(ソロギター)
ジャズギタリスト横田明紀男氏の演奏。
ジャズギタリストならではの超絶技巧、正直「自分には一生弾けん」と思うレベルのアレンジ・演奏ですが、良い意味で同じ「ギター」という楽器を弾いているように思えない、素晴らしい演奏だと感じます。ミュートと狙った音のメリハリが半端ないです。
コメントにある通り、「ギターに愛された人」という表現がぴったりです。
Duo Bensa-Cardinotのリベルタンゴ(ギターデュオ)
海外のギターデュオ「Duo Bensa-Cardinot」による二重奏アレンジです。
彼らの演奏動画を見て「自分も弾きたいなあ」と思ったのがリベルタンゴの楽譜を作って弾くきっかけだったこともあり、個人的には「リベルタンゴのギターと言えば」というレベルでイチオシの演奏です。アレンジ・演奏ともにカッコ良すぎませんかねこれ、尊い。。
動画のラストで二人が視線を合わせるのも「歴戦のパートナー」感がしてとても好きです。
Tatyana Ryzhkova 氏のリベルタンゴ(ギターカルテット)
海外のクラシックギタリストTatyana Ryzhkova氏の、ギターカルテット(四重奏)形式によるリベルタンゴです。
その場で四重奏しているかのような雰囲気ですが、見たところ全部ご本人で、編集で良い感じに合成されてるみたいです。
演奏はなんというか、シンプルに美しいですね。。(遠い目)
普段はおっさんが一人で弾く絵面ばっか見ているので、時々この演奏を見て心が洗われるような思いに浸っています。心が荒んだときに見るのがおすすめです。
ちなみにこのギターカルテット版のリベルタンゴですが、以下の楽譜集に入ってるのが比較的近いアレンジのものになります。(動画冒頭の静か目な前奏がない等、細部はさすがに違いますが)
【おわりに】弾きたい曲へのチャレンジがギター上達の近道
つらつらと書きたいままに書かせていただきました。
リベルタンゴという楽曲はヨーヨー・マ氏のチェロをはじめ、ギターだけでなく多くの楽器で長年演奏され続けている名曲ですが、今回まとめる中で、「これは長年愛されるわけだ」と改めてこの曲の魅力・奥深さを実感できました。(元々すごく好きな曲でしたが)
「自分には難しいかも」と思った方も、この曲がお好きであればぜひ一度チャレンジしてみていただきたいです。
私も実は最初「弾ける」と思っていなくて、それでも先人の演奏を見て「やっぱ弾きたい」と思って、できるだけ簡単になるようソロギター編曲してみたら何とか弾けた、というくらいでした。
もう何年もギターを弾いてますが、それでもこの「弾きたい曲が弾けたときの嬉しさ」というのは、何回経験しても良いもので、それを多くの方に味わっていただきたいと考えています。
「自分には難しいかも」と思ってもやってみて、最後弾けたときや演奏を褒めてもらったときはやりがいを感じるものですよ。
もちろん、弾きたい曲を弾くのが一番の上達の近道でもあります。
…曲に直接関係のない話が長くなってすみません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。